by
芥川龍之介
Language: Japanese
Release Date: October 26, 2013
芥川龍之介傑作選2 著作者別ランキングで上位の作品から選定を行っています。今回は第2版として、地獄変、トロッコ、杜子春、河童、或阿呆の一生など5作品を掲載いたしました。
地獄変
芥川龍之介
一 堀川の|大殿様(おほとのさま)のやうな方は、これまでは|固(もと)より、後の世には恐らく二人とはいらつしやいますまい。噂に聞きますと、あの方の御誕生になる前には、|大威徳明王(だいゐとくみやうおう)の御姿が|御母君(おんはゝぎみ)の夢枕にお立ちになつたとか申す事でございますが、|兎(と)に|角(かく)御生れつきから、並々の人間とは御違ひになつてゐたやうでございます。でございますから、あの方の|為(な)さいました事には、一つとして私どもの意表に出てゐないものはございません。早い話が堀川のお邸の御規模を拝見致しましても、壮大と申しませうか、豪放と申しませうか、|到底(たうてい)私どもの凡慮には及ばない、思ひ切つた所があるやうでございます。
トロツコ
小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まつたのは、|良平(りやうへい)の八つの年だつた。良平は毎日|村外(むらはづ)れへ、その工事を見物に行つた。工事を――といつた所が、唯トロツコで土を運搬する――それが面白さに見に行つたのである。
トロツコの上には土工が二人、土を積んだ後に|佇(たたず)んでゐる。トロツコは山を下るのだから、人手を借りずに走つて来る。|煽(あふ)るやうに車台が動いたり、土工の|袢纏(はんてん)の裾がひらついたり、細い線路がしなつたり――良平はそんなけしきを眺めながら、土工になりたいと思ふ事がある。
杜子春
一...